「夏の情婦」佐藤正午著
定職につくことなく実家で過ごしていた「ぼく」は、学習塾の講師として働き始める。釣り具店主の妻が自宅で始めた塾が仕事場だった。夏休み、午前中で授業を終えたぼくは、毎日、恋人の部屋に行き、彼女の帰りを待つ。4カ月前に知り合った彼女はバッティングセンターの受付係で、ぼくは客だった。
2度目のデートで、ラブホテルに入って以来、ぼくは伯母の家に間借りする彼女の部屋に通い続けてきた。ある日、伯母から2人の関係を問い詰められた彼女は、「情婦」という言葉が脳裏に浮かんだ途端、涙をこらえきれなくなった。その話を聞いたぼくは、彼女の言葉の選び方にただ感心する。(表題作)
直木賞作家が30年前のデビュー直後に発表したみずみずしい恋愛小説集。
(小学館 600円+税)