「沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ!日本の医療〉」堤未果氏
「アメリカで長く取材してきましたが、父の入院で初めて日本の医療に向き合い、日本の国民皆保険のすばらしさに気づかされました。健康保険証1枚あれば、いつでもどこでも、少ない自己負担分で医療を受けられます。アメリカでは200万円はする盲腸手術も日本では9万円程度。そんなことは日本人には当たり前なのですが、これは世界から羨ましがられる、数少ない日本の宝なんですね」
1961年、国民皆保険が成立し、会社員、公務員、自営業者やその家族、無業者も保険に加入するようになったが、こうした公的保険は世界でも珍しい。また、1カ月間に負担する医療費の上限が決まっていて、それ以上の医療費は国が負担する「高額療養費制度」も、世界が嫉妬するシステムだ。
ところが、そのありがたみを忘れている間に、じわじわとアメリカの強欲資本主義が日本を狙い、じわじわと扉を開けてきた。
「発端は、民営化を進め“小さな政府”をめざした中曽根政権にさかのぼります。1985年、日米間のMOSS会議(市場志向型分野別協議)によって、医薬品、医療機器の製造輸入の承認、許可、価格設定に関しては日本が自由に決めるのではなく、アメリカに事前相談することになりました。この不平等政策によって、日本は技術力があるのに、新薬や医療機器の開発を抑えられ、どの国よりも高い値段で、アメリカの製薬会社から医薬品を買わなければならなくなりました。このままでは日本もアメリカと同じような医療の地獄絵図が始まってしまいます」