「心も染まる紅葉」森田敏隆、宮本孝廣著
日本列島は桜前線の北上によって春を迎える。同じように、秋になると冬への備えを人々に迫るかのように紅葉前線が列島を南下する。本書は、その紅葉前線を追うように日本各地の美しい紅葉の風景を集めた写真集。
紅葉前線は北海道の大雪山の頂に始まり、麓を駆け降り、急ぎ足で南下を始める。9月下旬、その大雪山の麓、標高1700メートルの裾合平は、まだ残る緑と赤、そして橙、黄色が交じり合い、まさに錦秋の美しさ。その景色を映す水面まで紅葉に染まり一幅の絵画のようだ。
山形県の蔵王坊平高原から望む主峰・熊野岳、栃木県の鬼怒川の深い渓谷を覆う一面の紅葉を楽しみながらのライン下り、富山県黒部峡谷鉄道のトロッコ電車とのコラボレーションなど。どの風景もさまざまな色がグラデーションを生み出しながら複雑に絡み合い、上質の織物のような風合いさえ感じられる。
かと思えば、岩手県東八幡平の白樺並木や、秋田県の白神山地のブナの原生林、黄金に輝く上高地のカラマツ林、そして福島県のあづま総合運動公園のイチョウ並木のように、黄葉一色の風景もまた華やかで趣がある。
また、青森県の睡蓮沼に浮かぶエゾヒツジグサをはじめ、福島県の一切経山から見下ろす五色沼「吾妻の瞳」の吸い込まれそうな藍色とその周囲を彩る紅葉や、三重県赤目四十八滝の荷担滝を彩る紅葉など、水辺の風景との組み合わせが紅葉の美しさをさらに引き出す。中には、額縁のように真っ赤なモミジの葉の間から遠くに見える雲ひとつない青天の河口湖と富士山を写した絶景(表紙)もある。
大自然の中の紅葉景色だけでなく、秋田県角館の武家屋敷や、2・4キロにわたって両脇にメタセコイアの大木500本が並ぶ滋賀県の道路、敷地全体が紅葉に染まった奈良県の談山神社にそびえる桧皮ぶきの十三重塔など、人々の暮らしのなかの紅葉も愛でる。
枯れ山水の庭をモミジの赤い落ち葉が埋め尽くし、この瞬間だけの一期一会の庭と出合える宮城県円通院庭園や、池のほとりに植えられた500本もの広葉樹からの落ち葉で一面が真っ赤なじゅうたんを敷き詰めたような大分県の用作公園など、紅葉はまた落葉しても幻想的な光景をつくり出す。
北は北海道の羅臼湖「三の沼」、層雲峡から、南は鹿児島県霧島市の韓国岳まで146景を収録。
紅葉が終われば、いずれの地にもすぐに冬がやって来る。見頃が難しい各地の紅葉風景を移動せずとも一冊で味わえるのは、なんとも手軽でぜいたくな観賞法だ。忙しい日々を送り、紅葉狩りがまだの人、それどころではない人は、せめて本書でひとときの日本の秋を楽しんでみてはどうだろうか。
(光村推古書院 1800円+税)