歴史作家vs歴史学者の「史実」をめぐる審判

公開日: 更新日:

「坂本龍馬が教科書から消える?」というので先ごろ話題になった高校日本史の用語精選案。それを図らずも思い出したのが現在、都内公開中の映画「否定と肯定」である。

 90年代半ば、アメリカの女性歴史学者がイギリスの歴史家から名誉毀損で提訴される。ナチによるユダヤ人のホロコーストを捏造とする「陰謀論」を真っ向から論破した彼女の著作のおかげで世評を傷つけられ、作家として営業妨害されたという。結局、足かけ4年にわたりイギリスの法廷を舞台に「史実」が審判された実話の映画化作品だが、「南京大虐殺でっち上げ説」などの連想もあって映画評やSNSでも評判のようだ。でも、それがなぜ坂本龍馬?

 実はこの映画、よく見ると「歴史作家VS歴史学者」の話でもあるのだ。同じ「歴史家」でも大学で研究する「歴史学」者と文筆家として「歴史書」を書く物書きは違う。それが司馬遼太郎以来の「龍馬ブーム」と学問的な「歴史」への対し方の相違を思い出させるのである。

 小澤実編「近代日本の偽史言説」(勉誠出版 3800円+税)は2年前に学界で話題になったシンポジウムの論集。江戸後期、近江・山城国で捏造された中世の古文書(と称する偽書)群がどう書かれ、流通し、後世の郷土史家たちを惑わせてきたかを詳細に調べ上げた巻頭論文をはじめ、偽史(フェイク・ヒストリー)それ自体を歴史研究の対象とする意欲作。ユダヤ陰謀説と日猶同祖論(日本人とユダヤ人は先祖が同じ説)にそれぞれ1章が割かれ、両者が共存するニッポンの不思議もうかがえる。

 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動