「世界で一番美しいサルの図鑑」京都大学霊長類研究所編
地球上に現在生息する約440種の霊長類(サル目)のうち、約130種のサルを研究者による最先端の解説とともに紹介する写真図鑑。
われわれヒトも属する霊長類は、恐竜の時代が終わりを告げた、今から6500万年ほど前に誕生し、さまざまなグループに分かれて進化してきた。
ゆえに体重わずか100グラム前後で人間の手のひらに乗ってしまうほど小さい「ピグミーマーモセット」から、最近は動物園でも人気の「ゴリラ」まで、その容姿や生態は実に多様だ。
本書では、「南米」「アジア」「マダガスカル」「アフリカ」に生息するサルがそれぞれの地域ごとに登場する。
南米のコロンビアやベネズエラなどに生息する「アカホエザル」は、1頭のオスと数頭のメス、そしてその子どもたちからなるハーレム型の群れをつくる。子どものオスは、性成熟すると群れを離れ、他の群れを乗っ取り、先代のオスを追い出すと群れの子どもを殺してしまう。母親の発情を早め、自分の子どもを早く産めるようにするこの行動のため、アカホエザルの子どもで生き残るのは、全体の25%に満たないという。
この子殺しは、多くの霊長類で見られる行動なのだが、乳飲み子を守るのがオスの仕事だというマウンテンゴリラでは、頻発する子殺しを避けるためメスが、複数のオスがいる集団へ移籍する傾向が強まり群れが大きくなるなど、子殺しによる社会の変容が見られるそうだ。
性交渉を繁殖以外の目的に使うことで知られるアフリカのボノボは、ニセの発情を増やすことでオス間の性的競合を緩和し、メスがオスを選ぶ自由度を高め、メス同士が協力してオスからのハラスメントに対抗することで、メスの社会的地位を高めていると考えられている。
そのあまりに人間くさい生態には驚くことばかり。改めて親近感を抱いてしまう。
驚くのは生態だけではない。表紙を飾る「アカアシドゥクラングール」というインドシナ半島の東部に生息するサル。独特のその相貌も味わいがあるが、胴体が灰色、首とすねは赤、肩・腰・手足は黒、尾などは白、そして顔の皮膚はオレンジ色と5色もの体毛から「世界で一番美しいサル」の異名を持っている。
他にも、目の周りが白くメガネをかけているように見える「ダスキールトン」、頭が左右に分かれ団子状に盛り上がった「クロヒゲサキ」、酒に酔ったように真っ赤な坊主頭にミノのような厚い毛皮をまとった「アカウアカリ」、額のオレンジ色の毛と鼻から口にかけてのびる白いヒゲがどこか水戸黄門を思わせる「ブラッザグェノン」など、見たことも聞いたこともないサルが続々と登場。写真を眺めていると、どこかで会ったような顔、知り合いに似た顔なども現れ、思わずニヤリ。読んで楽しく、見て楽しいおすすめ図鑑。
(エクスナレッジ 2800円+税)