「レゲエ・アンバサダーズ」アレクサンドル・グロンドーほか著 鈴木孝弥訳
本当のレゲエとは何か? その発祥の地であるジャマイカの庶民の希望の声なのか、それとも革命の歌か、はたまた世界の問題に積極的に関与するミュージシャンたちの予言の言葉か――この音楽が伝えるさまざまな価値を、第一線で活躍するアーティストらが語ったインタビューや彼らの生きざまを追ったルポルタージュで伝えるビジュアルブック。
2010年以降、レゲエに新しいムーブメントが巻き起こっている。そのムーブメントを牽引する「レゲエリバイバル」と呼ばれる世代のリーダー格のひとりがプロトジェイだ。
ミュージシャンの家に生まれた彼は、子どものころから音楽を呼吸して生きてきた。2000年代に入り、それまでしていた法律の勉強を放り出して、いとこのプロデューサーと組み、7年をかけて11年にファーストアルバム「The 7 Year Itch」をリリースし、レゲエ界に新しい風を送り込む。
これまで3枚のアルバムをリリースして政治・社会問題に積極的に踏み込む彼は、ラスタファリ運動の先駆者でもあったミュージシャンのピーター・トッシュが殺害された事件や、運動の創始者であるレナード・ハウエルが1930年に皇帝の写真を持っていたせいで逮捕されたことなどを曲の題材に取り上げる。彼は、「聴いたみんながそれらの事柄に興味を抱き、各自で調べてもらえうように音楽で語るんだ」とその意図を語る。 同じ世代の女性アーティスト、ジャー9は、「最も大切なものは、レゲエではないのです。ラスタの運動ははるかにレゲエ以上のものなのです」と、音楽活動と同時に社会福祉活動にも積極的に携わる。
こうした若手アーティストに影響を与えたのが、現在はコカイン不正取引の共謀罪を問われ(本人はおとり捜査にはめられたと身の潔白を主張)、アメリカで服役中のブジュ・バンタンだ。
10代でアルバムデビューを果たし、絶えず進化を続けてきた彼は、自らを「俺は反逆者(レベル)だ。名誉ある反逆者、大義ある反逆者だ。その大義にあいまいな点はない。レゲエは、その精神を高めるメッセージと態度の表明を通じて、意識と信条(コンシャスネス)を表現し続けなければならない。レゲエは、喜びと生命の尊重を運び得るものでなくてはならない」と訴える。
さらにバニー・ウェイラーやリー・ペリーなどのレゲエの父と称えられる世代まで、時代をさかのぼりながら35人のアーティストを紹介。
抑圧された人々の声なき声から生まれた音楽は、今、世界中の市民のメッセージを運ぶ。そのメッセンジャーである彼らの音楽に対する思いや生き方が心を打つ。
各アーティストの代表曲や必聴盤も紹介。さらに本書購入者には、インタビュー動画を含む映像作品もダウンロードによって提供され、総勢55人が登場するレゲエガイドブックのまさに決定版だ。
(ディスクユニオン 3500円+税)