自分の尺度、常識で物事を考えてはいけない
「47都道府県の偏差値」久保哲朗著/小学館/780円+税
ネットのニュースを編集する日々がこの12年ほど毎日続いているが、常に抱き続けているジレンマがある。それは「我々が出しているこの情報は、実は首都圏及び大阪市内でしか通用しない話なのでは……」という件である。もちろん、地方紙やテレビの地方局、地元コミュニティー誌は、地元のニーズに応えた情報を出しているが、そうでないメディアの編集をしていると、この感覚を抱く。
全国で販売する雑誌はもとより、世界中で見られるネット記事もそうなのだが、ついつい情報の発信主体の感覚で取材をし、編集をしがちである。たとえば最近、「春のちょっとした節約術」という記事を出したのだが、そこで挙げたのが「マイカーを売り払い、カーシェアリングを利用する」という技である。
カーシェア自体は全国でサービスが展開されており、大都市では確かに便利である。だが、地方都市ではレンタカーの代わりに観光客が使っている場合が多いという側面がある。そもそも「1人1台」が当たり前というほど公共交通機関がない場所が日本には多数存在しており、大都市圏以外の人に対して「マイカーを売り払え」という提案は非現実的かもしれない。
本書は47都道府県のさまざまな状況を各種データで紹介するとともに偏差値を算出した書である。たとえば「ラーメン外食費用」は、全国平均では年間5758円で、最も高いのは山形県の年間1万4585円で偏差値が84.84。最も低いのは和歌山県の2994円で偏差値は35.64といった具合だ。「和歌山ラーメンって、けっこう人気あったんじゃないの?」なんて思わせるつくりになっており、47都道府県の地域性を知ることができる。
項目としては「労働人口」「正社員率」「失業率」「貯金額」「持ち家率」「若い女性の数」「コンビニの数」「殺人事件被害者数」などがある。
前述のカーシェアリングの話に戻るが、自動車保有台数に関しては人口100人あたりの全国平均は48.26台だが、トップの群馬県が69.58台、39位の福岡県が50.45台。46位の大阪府が31.35台で、最下位の東京都が23.19台。これを見ても分かるように大都市圏は「同じ国」とは言えないほど特殊なのである。
「地域マーケティング」という言葉もあり、それぞれの地域に合わせた商業活動が必要なのは自明だが、仕事人(特に大都市圏の人間)は、自分の常識で日本全体を考えない方がいいことを本書は伝える。
★★半(選者・中川淳一郎)