お花見の次は新緑の名木巡り
「東京名木探訪」近田文弘・文 川嶋隆義・写真
新緑の季節が訪れるたびに、東京は意外にも緑にあふれた街であることに改めて気づかされる。皇居をはじめ、上野公園や明治神宮など、あちらこちらに大きな森さえある。本書は、そんな東京のあまたある木々から、巨樹や名木、いわれのある木を樹木学の観点から紹介・解説してくれるビジュアルブック。
江戸城を中心とするかつて江戸市中と、その周辺の農村だった現在の23区の外縁部には、江戸時代に植えられた庭園木が今も残っている。浜離宮恩賜庭園(中央区)の「三百年の松」は、6代将軍家宣が植えたといわれるクロマツ。正面から見ると幅20メートルにわたって傘状の枝葉が台形の樹冠をつくりだし、まるで小山のようだ。
文京区のビルの谷間にそびえる樹高20メートルのクスノキは、推定樹齢600年。江戸時代の旗本の屋敷にあったこの木は、当時から「本郷の大楠」と呼ばれていたそうだ。
明治時代以降に植えられた樹木にも、見どころがある木は多い。明治14(1881)年に植えられた東京国立博物館(台東区)のシンボルツリーのユリノキもそのひとつ。今では樹高約30メートルに育ち、夏場、幹の低い位置から伸びた何本もの枝に葉を茂らせたその樹形は、巨大な緑のまりのようだ。
同じく台東区谷中の「パン屋のヒマラヤスギ」は、今も三差路で営業するパン屋のご主人の祖父が植木鉢に植えた苗が育った巨樹。そんな面白エピソードも交えながら、多摩地域も含めて54本の樹木を取り上げる。
博物館のユリノキを伐採して駐車場を造る計画が浮上するなど、名木といっても、その運命は不確かな木も多い。花見が終わったら、次は新緑の名木に会いに行こう。(技術評論社 2380円+税)