黒人たちの自由への夢を乗せた米国版銀河鉄道
「地下鉄道」コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳/早川書房 2300円+税
リンカーンによって奴隷解放が宣言される以前の18世紀末から、アメリカでは南部の黒人奴隷を北部の自由州へ逃亡させる運動が少なからずあった。中でも有名なのが、「地下鉄道」と呼ばれる秘密組織である。発覚すると逃亡に関与した者も罰せられるため、逃亡させる奴隷は「積み荷」、輸送を助けるのは「車掌」、奴隷をかくまう小屋は「駅」といった符丁を使い極秘裏に行われた。
無論、実際に地下を鉄道が走っていたわけではないが、もし本当に地下を結ぶ鉄道があったら……。本書は、そんな「もし」から生まれた小説である。
ジョージア州のプランテーションに住む15歳の少女コーラは、アフリカから連れ去られた祖母から数えて3代目の奴隷。母は幼いコーラを残して逃亡、みなし子となった。繰り返される暴力と暴行と、プランテーションでの暮らしは悲惨をきわめていた。ある日、コーラは同じ奴隷のシーザーから「北へ逃げないか」と誘われる。
半信半疑ながらシーザーについて地下へ下りると巨大なトンネルの先に「駅」が現れた。列車に乗って着いた先はサウスカロライナ。白人と黒人が交ざり合って歩く自由な雰囲気に希望を見いだしたコーラだが、奴隷狩り人のリッジウェイによってその夢はあえなくついえる。辛うじてリッジウェイの手を逃れノースカロライナへたどり着き、屋根裏に隠れ住むが、そこへまた追っ手の手が伸びてくる……。
コーラと奴隷狩り人との追いつ追われつはサスペンス映画さながらだが、列車が地下を走るという設定以外は史料をきちんと押さえており、この時代のアメリカの暗部を強烈に照らし返している。また東理夫の「アメリカは歌う。」によると、ニグロスピリチュアルの歌詞には、この地下鉄道の「駅」へと導く暗号が秘められているという。黒人たちの自由への夢を乗せて走る「地下鉄道」は、アメリカ版銀河鉄道といえるかもしれない。
<狸>