「ひと」小野寺史宜著
高2のときに父を亡くし、20歳で母を亡くした柏木聖輔は、大学を中退し、仕事を探していた。財布の中身は55円。肉屋で50円のコロッケを買おうとしたが、横から割り込んだおばあさんに最後のひとつを譲った。メンチカツはあるが120円。店主が50円でいいと言ってくれたので、店先で食べていると、「アルバイト募集」の張り紙が目に入った。時間給950円。即言った、「働かせてください」。
翌日、履歴書を持って訪れ「ここで働いたら、実務経験証明書に印鑑もらえますか?」と尋ねた。大卒の資格は取れない。この先身に付けられる技術は、と考えたら、答えがぽんと出た。父と同じ調理師だ。突然、ひとりぼっちになった青年を描く青春小説。(祥伝社 1500円+税)