「恋の川、春の町」風野真知雄著
主人公は、駿河小島藩の年寄本役・倉橋寿平。武士でありつつも持ち前の筆の才能を生かして庶民を楽しませる戯作を書き、人気作家・恋川春町というもうひとつの名を持っていた。ところが、お上への批判をしのばせて書いた黄表紙が思いのほか大人気になってしまい、黄表紙への規制を強める松平定信に目をつけられたのではという噂が立ち始める。
自由に物を書けない空気を感じた同業者たちは、風向きが変わるまで様子を見ようと休筆したり、田舎に逃げ込んだり。そうこうするうち、定信からの呼び出しがやってくる。吉原のおわき、女戯作者のおちち、幼馴染みのおけけらとの戯れに逃げ込んでみたものの、ついには本妻のおさねと身の処し方を話し合うときがきた……。
「妻は、くノ一」などの歴史小説で人気の著者による最新作。
武士の身分にありながら、軽妙なタッチで武士批判の戯作を書き続け、謎の死を遂げた恋川春町。その生きざまを彼と関わりのあった6人の女を通して描いている。
(KADOKAWA 1500円+税)