「童の神」今村翔吾著
京の愛宕山に、滝夜叉と呼ばれる盗賊がいた。平安時代の話である。その女頭目である皐月は、朝廷に反抗した平将門の遺児といわれている。皐月の配下も、将門の遺臣やその子らだ。この滝夜叉をしのぐ反朝廷勢力が、土蜘蛛と鬼。しかし、これらの民が盗賊集団で、世を乱す反朝廷勢力と決めつけているのは朝廷側の論理であり、滝夜叉、土蜘蛛、鬼たちの言い分は異なる。彼らは平等に生きることを求めているだけなのである。しかし京人たちは彼らを蔑んでいる。こういう対立の構図が本書の基本設定だ。
主人公は越後の豪族の子として生まれた桜暁丸。13歳で身の丈五尺六寸の大男。さらに剣も強い。越後は米どころだが、米の大半は京に送られるので、食えない庶民も多く、その矛盾が桜暁丸を苦しめる。成長するにしたがってこの男が反朝廷勢力と結びつくのは当然だった。というわけで、京人に蔑まれている民と、朝廷軍の戦いが始まっていく。
朝廷軍を支えるのは源の四天王。四天王のひとり、渡辺綱が途中からフェードアウトするのは救いだが、坂田の金時(幼名は金太郎)は、弱者をやっつける側だったのか。他にも安倍晴明に酒呑童子など、平安のオールキャストが勢ぞろいの感もある。
今村翔吾は、江戸の火消しの世界を描く「羽州ぼろ鳶組」シリーズですでにお馴染みだが、まさかこういう小説を書くとは思ってもいなかった。うれしい驚きである。
(角川春樹事務所 1600円+税)