「死に山」ドニー・アイカー著安原和見訳
世界一不気味な遭難事故〔ディアトロフ峠事件の真相〕、という副題のついたノンフィクションである。
60年経ってなお謎とされてきた1959年のウラル山脈で起きた遭難事故を、アメリカのドキュメンタリー映画作家が調査するかたちで本書は始まっていく。とにかく異様な遭難事故だ。9人の若者が、無残な死にざまで発見されたのだが、どうして彼らが死んだのか、その原因がわからないのだ。氷点下であるのに全員が衣服をろくにつけず、靴をはかず、テントの外でなぜ死んでいたのか。頭蓋骨骨折が3人、女性メンバーの1人は舌を喪失、遺体の着衣からは放射線が検出。熊に襲われたのか、政府の極秘実験の被害となったのか、宇宙人なのか。どんな推理を持ってきてもすべての死を説明できない。
彼らの旅はトレッキング第3級の資格を得るためのもので、その資格を持てば「スポーツマスター」として人を指導することができる。そのために、服装をはじめ、さまざまな規則を守ってトレッキングしていることを証明するために写真を撮る必要があった。本書にたくさんの写真が収められているのはそのためである。遭難に遭う直前まで、元気に、時には笑顔でトレッキングしている彼らの姿はとてもリアルだ。
ノンフィクションではあるけれど、ミステリーを読むようにスリリングで、合理的な真相にたどりつくラストは圧巻。
(河出書房新社 2350円+税)