「対岸の家事」朱野帰子著
日本の労働戦士たちは朝早く家を出て、深夜まで帰宅しないから、家で何が起きているのかを知らない。その間、何が起きていて、妻が何と戦っているのかがわからない。それを描いたのが本書だ。家事と育児がいかに大変であるのかが、身に染みて実感できる小説といっていい。
本書の主人公・詩穂は、悲鳴を上げる寸前にいる。ママ友もいないし、実家とは絶縁しているので頼る相手もいない。深夜遅く帰宅する夫は話を聞いてくれないし、専業主婦は楽でいいねと言われて傷ついたりする。だから時に、ふらふらと団地の屋上にあがったりする。危ない危ない。
この小説は、詩穂を中心にさまざまな女性たちを描いていくが(中には育休中の男もいたりする)、たとえばワーキングマザーの礼子も大変である。子供が熱を出せば仕事中であっても迎えに行かなければならないし、会社ではいつも肩身の狭い思いをしている。彼女もまたふらふらと屋上にあがったりするから、本当に危ない。
一緒に暮らす者の理解も必要だが、社会の制度も問題だ。そのしわ寄せを彼女たちは一身に引き受けている。その過酷な現実をこれでもかこれでもかと描いていくので息苦しくなる小説だが、最後まで読むと元気が出てくるのは、必ず解決策はあるという強いひびきがあるからだ。絶妙な人物造形と秀逸な構成もいいが、なによりもその希望が心地よい。
(講談社 1400円+税)