「クロストーク」コニー・ウィリス著 大森望訳

公開日: 更新日:

 ヒロインのブリディは、画期的な脳外科手術EEDを受ける。その手術を受けると、恋人や夫婦がお互いの気持ちをダイレクトに伝えることが可能になるのだ。これは、そういう未来の時代の物語だ。

 ところが、手術が終わると、ブリディが接続したのは恋人のトレントではなく、会社一の変人のCBだった。心で思ったことがダイレクトに相手に伝わっちゃうのは便利なのか不便なのか、かくてドタバタが始まっていく。

 この小説が素晴らしいのは、ブリディの姉妹や会社の同僚などが目に浮かんでくるように描かれていて、そのリアリティーに圧倒されるのが第一。しかしそれだけのことなら、描写力のある作家だなと感心するに過ぎない。

 特筆すべきはその構成だ。変人とテレパシーでつながるだけでも大変だが、それはまだ序の口で、意外なことが次々に明らかになるのだ。えーっ、何なのそれ! と言いたくなることの連続なのだ。ネタばらしになるので詳しくは書けないが、そのたびに物語は奥行きを増し、面白さが膨らんでいく。つまり、物語のギアが上がる感じ。具体的に言うと、その回数は4度。いやあ、まったく楽しい。

 未来を舞台にした物語であるから、ジャンルでいえばSFなのだが、EEDという手術以外は、それがどういう社会なのか、まったく描かれないので気にすることはない。もし人の心が読めたら、という小説として読まれたい。ラスト1行もいいぞ。 (早川書房 2700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…