「ルワンダ中央銀行総裁日記」服部正也著/中公新書
中公新書には意外なロングセラーがある。石光真人編著「ある明治人の記録」や、この「ルワンダ中央銀行総裁日記」である。
東大法学部を出て日本銀行に勤めていた服部は、求められて独立まもないアフリカの小国ルワンダに行き、6年間、その経済改革と国づくりに奮闘した。
服部はその後、世界銀行の副総裁にもなったが、40代後半から50代前半にかけてのルワンダ体験は大変だったでしょう、と尋ねると、「ぬるま湯につかっていると、外は寒いと思っちゃうんですよね」と笑みを浮かべて、首を横に振った。「イヤな思いをしなかったわけではないけれども、日銀にいる時よりは、それは少なかった」というのである。
自分もエリートなのに、「保身」を考える年寄りくささとは縁遠い服部は、常にチャレンジ精神を失わなかった。服部に言わせると、常時ストライキをやる労働者を相手にしているイギリスの経営者の方が日本の経営者より優れているとのことだった。
服部はルワンダを去るに当たって、こう思ったという。
「私は戦に勝つのは兵の強さであり、戦に負けるのは将の弱さであると固く信じている。私は、この考えをルワンダにあてはめた。どんなに役人が非能率でも、どんなに外人顧問が無能でも、国民に働きさえあれば必ず発展できると信じ、その前提でルワンダ人農民とルワンダ人商人の自発的努力を動員することを中心に経済再建計画をたてて、これを実行したのである。そうして役人、外人顧問の質は依然として低く、財政もまた健全というにはほど遠いにもかかわらず、ルワンダ大衆はこのめざましい経済発展を実現したのである。後進国の発展を阻む最大の障害は人の問題であるが、その発展の最大の要素もまた人なのである」
これほどダイナミックな経済実践記録もないが、私が特に忘れられないのは「戦に勝つのは兵の強さであり、戦に負けるのは将の弱さである」という指摘である。これを逆に、「戦に勝つのは将の強さであり、戦に負けるのは兵の弱さである」と考える経営者やリーダーが多すぎるのではないだろうか。
カルロス・ゴーンの問題も“強い将”を求めた結果だと思われる。もちろん、首切りをするだけの経営者が本当に強い将であるわけがないのに錯覚したのである。
★★★(選者・佐高信)