「アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート」櫛野展正著

公開日: 更新日:

 世の中には、他人の目や評価などを一切気にせず、自らに湧き上がる衝動に突き動かされるように、ひたすら創作活動を続ける人がいる。そうした市井の表現者たちを紹介するアートガイド。

 こうした人々の作品は、近年「アール・ブリュット」と呼ばれ、注目が集まっているが、その言葉には「純粋」「無垢」などの側面が重視されていると、著者はあえて負のイメージをも内包する「アウトサイダー・アート」という言葉をあてる。

 その1人、「ストレンジナイト」と名乗る男性は、かつては美術業界の渦中にいたそうだが、今は年齢も名前も非公開で、自作のマスクをかぶり人目を避けて生活している。氏は、那須高原に私設博物館を開設して、自ら製作した2万点を超える仮面やオブジェ、絵画などを展示しているが、博物館は年中休館中だという。

 その他にも、自ら架空のお笑い芸人を多数つくり出し、彼らのイラストをはじめ、その経歴や、それぞれのネタ、そして架空の「R―1グランプリ」などの大会に出場した記録まで、すべて無からつくり出してしまう「けうけげん」さん、自宅の外壁からトイレや風呂場、寝室、そして家電にいたるまであらゆるスペースを色鮮やかな図柄で埋め尽くす小林伸一さん、鉄筋コンクリート造りの自邸の均一な形が気に入らず、その自宅を覆うよう石灰岩を積み上げて岩山にしてしまった沖縄の饒波隆さんなど。

「セルフビルド」や「過剰装飾」などジャンルごとに90人、さらにお勧めアウトサイダー・アーティスト45人を加え計135人の「表現者」たちを紹介する。

 読者は、一人一人の内面世界が表出したようなそれぞれの「作品」の熱量と、彼らの生きざまにただただ圧倒されるに違いない。

(イースト・プレス 1800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動