「湯けむり行脚」池内紀著
秋田と岩手の県境に広がる八幡平には温泉がひしめいているが、そのどん詰まりのひとつ手前にあるのが、秋田の後生掛温泉だ。ここには、地熱で床がホコホコ温かいオンドルのほか、蒸し風呂、泥風呂、湯滝、火山風呂などがある。オンドル個室が1人3000円、大部屋が大人2000円(1996年)。自炊の電気・ガス代が1日200円(同)で、毛布も丹前も鍋もテーブルも借りられる。
身ひとつでやって来て5年居ついている人がいて、息子一家が旅行を兼ねて訪ねてくるという。池内は1日3度も湯に入り、浴槽の縁に頭をのせて、流れ込む湯の音を聞いていた。
他に、秩父困民党の面々が決起の前に集まった千鹿谷鉱泉の温泉宿など、100湯以上を紹介する温泉エッセー。
(山川出版社 1800円+税)