「昆虫は美味い!」内山昭一氏
近年、昆虫食ブームだ。昆虫を食べると聞くと、イナゴのつくだ煮や蜂の子など昔ながらの料理、あるいは東南アジアの屋台に並ぶ料理を思い浮かべる人も多いだろうが、このブームはさにあらず。世界中がある理由から“昆虫”に熱視線を送っているという。
「キッカケは2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した、『今後は昆虫が食糧になり得る』というリポートです。現在の人口は75億人ですが、2050年には98億人になるという。つまり、人口増加に伴う食糧問題の解決策として、昆虫に白羽の矢が立ったんですね」
著者は昆虫料理研究家。幼少の頃を過ごした長野県は昆虫食が盛んで、蚕の蛹の煮つけを食べたのが昆虫食との出合いだった。そして20年前、多摩動物公園で開催されていた「世界の昆虫食展」で昆虫食と再会。ムクムクと好奇心が湧き、友人と河原で捕ったトノサマバッタを食べたところ、あまりのおいしさに開眼し、活動を始めた。
「素揚げして食べたんですが、見た目も味わいもエビそっくりでした。そもそも昆虫は食材に向くんですよ。昆虫のタンパク質は家畜と同等程度で平均して60%と高い。必須アミノ酸のバランスも良く、ビタミンB群、不飽和脂肪酸を多く含む高栄養食品なんですね。飼育変換率の高さも魅力で、肉を1キロ増やすために牛なら10キロ、豚は5キロの餌が必要ですが、コオロギは2キロで済む。
ほかにも可食部率が大きい、メタンや二酸化炭素などの放出量が少ないなど、昆虫は地球環境にもやさしいスーパーフードなんです」
世界では20億人が2000種類の昆虫をおいしく食べているそうだ。最も多いのがクワガタムシやカミキリムシなどの甲虫、次に蝶や蛾などの幼虫、3番目に蜂、アリが挙がる。日本では大正時代まで55種類の昆虫が食べられていたが、現在はザザムシや蚕など4種類しか残っていない。
気になるのはお味だが、これまで約100種類を食べてきた著者によると、捕るタイミング、調理方法などによっても随分と変わるらしい。
「魚や野菜と同じように、昆虫も旬を食べたほうがおいしいので季節感は大事にしたいですね。その上で、初めて食べるならアブラゼミ、それも幼虫が断然お薦めです。衣をつけた天ぷらにすれば形は分かりませんし、食感も味わいもナッツ味で非常に美味。ビールが進みます(笑い)。意外なところではサクラケムシもお薦め。モンクロシャチホコという蛾の幼虫で、桜の葉しか食べないんですよ。採集時期はさなぎになる直前の秋。桜の香りが濃厚でみな驚きます。この幼虫のふんを集めて煎じてお茶にすると桜茶になるんですよ」
本書では、他にもカマキリ、なんとオオゴキブリまで全26種を紹介。「ジョロウグモは枝豆の味」「カメムシはパクチーの香りがするか?」といった興味をそそる食感リポはもちろん、食べ方や昆虫の生態まで紹介されており、読み物としての面白さも十分だ。
「昆虫食がブームでも、生で食べるのは厳禁、加熱が絶対条件です。火を通せば雑菌は死滅しますから、衛生上の心配はありません。また少なからずアレルギーの問題もありますから、少量で試すなど注意も必要です。一度でも経験し食べられるという実感が持てれば、災害や遭難に際して大きなメリットになります」
ちなみに著者お薦めのベスト3は、前述のトノサマバッタ、白子の味わいが楽しめるオオスズメバチの前蛹、第1位はマグロのトロの味わいのカミキリムシの幼虫だそうだ。
間もなく虫が目覚める春到来。昆虫食、試してみる?
(新潮社 760円+税)
▽うちやま・しょういち 1950年、長野県生まれ。昆虫料理研究家、昆虫料理研究会代表。NPO法人食用昆虫科学研究会理事。著書に「昆虫食入門」「昆虫を食べてわかったこと」など。