「『砂漠の狐』ロンメル」 大木毅著
ロンメルとは、ヒトラーにも寵愛されたドイツの軍人である。
ナチス・ドイツ下において圧倒的な人気を誇った。北アフリカでの戦線を率いて「砂漠の狐」と呼ばれ、敵将からも恐れられ尊敬されていた。
「ロンメル軍団を叩け」というような映画のタイトルで記憶している人もいるだろう。
最期はヒトラー暗殺に加担したとされ、毒を飲むように命じられて死んでいる。そのロンメルの軍人としての生涯を描いたのが本書である。
第1次世界大戦から第2次世界大戦までのドイツの姿が描かれている。ロンメルがどう戦ったかを図解を添えて語られ、実にわかりやすい。どれだけ資料を調べたのだろうと驚嘆する著述である。
第1次大戦中は、山岳を担当する部署を指揮し、ロンメルは数々の軍功を挙げる。のちに「狐」と呼ばれた将校は、敵を騙すのが得意だった。一方向から攻めるように見せておきながら主力部隊をよそに回し、戦闘が佳境に入ったところでその別動隊を突入させ、敵の錯乱を誘い、殲滅する。特に1918年7月のコスナ山の攻略戦の図解は、まさに調査のたまものであり、躍動する描写になっている。
目の前で今、戦闘が行われ、ロンメルが山を征服しているのを俯瞰するような気分になった。
第2次大戦においてはフランスを占領した電撃作戦が圧倒的である。ロンメルは先頭を進み、自分の後続部隊までぶっ千切って侵入していく、という傾向のある人だった。将校であるにもかかわらず最前線に立ち、先頭で戦うその姿はいつも支持された。
「奇襲による勝利」を狙うロンメルの姿勢は、やがて国軍を担う将軍となり「負けないこと」を求められる地位に上ると、機能しなくなっていく。さまざまな苦汁をなめ、やがて悲劇に見舞われる軍人の姿は、戦国時代の武将たちの生涯を眺めているようでもある。重厚な資料に裏付けられたこの新書はまた、「一人の武将の生涯」を描き切った物語本とも読める。
(KADOKAWA 900円+税)