「若冲伝」佐藤康宏著
鶏の絵で知られる伊藤若冲は、京都の錦街(現在の錦小路)にあった青物市場を管轄していた桝屋の跡継ぎで、代々、源左衛門を名乗った。在家のまま仏教に帰依したので、「若冲」はその居士名である。
若冲が生きた18世紀中ごろは商品の流通や貨幣経済が発達し、若冲の商売にも利益をもたらしたが、それだけストレスも大きくなった。俗事を嫌った若冲は、2年ほど丹波の山奥に隠棲するが、そのため、3000人もの青物売りが困ったという記録が残っている。若冲は学問にも、女や酒、金儲けにも興味を示さず、10代から絵画にのみ熱中した。それはストレスからの逃避ではなかったかと著者はみる。
多角的な視点から若冲の内面に迫る評伝。
(河出書房新社 2400円+税)