「夜の塩」山口恵以子著
主人公は、私立名門校の英語教師として働いている篠田十希子。同僚との婚約も決まり、幸福な日々が始まる予感に胸をはずませていた。
ところが、十希子の花嫁姿を一番楽しみにしていたはずの母が、仲居として働いていた料亭「千代菊」の客であった男と突然心中したというニュースが入る。父が亡くなって以来、女手ひとつで十希子を育ててくれた母が、このタイミングで心中するわけがない。そう確信した十希子だったが世間の目は冷たく、勤めていた学校は辞めざるを得なくなり婚約者も去った。
母と心中した商社勤めの男は、鉄鋼会社との架空取引に関与したとして、検察に召喚される寸前だったという話を聞いた十希子は、母の死の真相を探るべく、母の働いていた料亭に潜入して働き始めるのだが……。
2007年「邪剣始末」で作家デビューし、2013年に「月下上海」で第20回松本清張賞を受賞した作家の最新作。
なぜ母親は娘の結婚直前に死ななければならなかったのか。母親の汚名をそそぐため、体当たりで事件の渦中へと身を投じたひとりの女性の、愛と復讐の物語になっている。
(徳間書店 1700円+税)