「『いつでも転職できる』を武器にする」松本利明著/KADOKAWA/1400円+税
人事・戦略コンサルタントの書いた本である。タイトルだけ見るといわゆる「自己啓発書」の類いかと思われるかもしれないが、そんなことはない。自己啓発書は、前向きになれるような美辞麗句が並ぶが、本書は身もふたもない仕事における実態や、人間の真理を描く。
〈一番美味しい仕事は表にでないで決まるからです。それも、人が持ってきてくれます。本当に美味しいポジションは求人情報サイトや人材紹介会社に届く前に決まるのです。
・ヘッドハンター
・退職した上司、先輩、同僚、後輩
・友人知人の紹介〉
確かにそうなのである。自分の周囲を見ても、幸せそうな転職をした人は、このパターンが圧倒的に多い。自分自身のことを考えても、営業などは一切したことがないが、とにかく知人からの紹介で仕事をいただけた。
あとは、当たり前のことなのだが、自分の強みを知るにはキャラを知れ、といった提言もされているが、具体的には、職場の関係者にこう聞いてしまえ! と提案する。
〈・私に頼みたい仕事って、どんなものがありますか? ・その仕事を私に頼みたい理由の本音を聞かせてくれませんか?〉
これもまさにそう! なのだ。自分が仕事を頼むにしても、さまざまな理由がある。それは「ガタガタ聞き返さず、『例をください』とも言わない」「納期が早い」「お金のことでもめることが一切ない」などだが、上記の質問をすれば、「なるほど! だから私はこの人から仕事を振ってもらえるのだ」ということが分かり、そこを追求する、という新たな道が開ける。
そして、転職にあたり、本書で指摘された重要ポイントがその会社に「アルムナイ(alumni)」があるか否かだ。これは、退職者の集まりを意味するが、著者はアクセンチュア出身。2000人が参加するメーリングリストと、フェイスブックの非公開グループが存在するのだという。ここで何かを聞けば適切な答えが返ってくる。
〈企業と退職者に友好な関係が築けているので出戻り採用も発生します〉ともあるが、退職者が古巣に愛着を感じ、そこで過ごした者同士が友好関係になっているというのは良い会社といえよう。だからこそ、転職をするにあたっては、アルムナイの有無を聞けばいい、とも説く。もしもない場合は、退職の際、何かと禍根を残しがちな風土があったり、ブラック企業の可能性もあるからだ。 ★★★(選者・中川淳一郎)