「ライザップ式接客術」幕田純著/講談社
あらかじめお断りしておくと、今回の書評には、多分に私情が入っている。それは、本書の著者が、私がライザップでダイエットに成功したときのトレーナーだからだ。
当時から、私は彼が天才だと思ってきた。筋トレというのは、自分の限界のちょっと上までやるのがコツだ。限界を超えてやると、筋肉痛になる。その状態でタンパク質を取ると、タンパク質が筋肉を補修しにいくので、筋肉が大きく太って、基礎代謝が上がるメカニズムになっているからだ。ところが、私は運動が好きでも、得意でもない。意志も強くない。だから一人で限界を超えるのは不可能なのだが、著者は、私の限界を察した瞬間にヨイショを入れてくる。それに乗せられて、私は限界を超えてしまうのだ。著者の絶妙のタイミングの掛け声は、天性の才能だと思っていたのだが、本書を読んでそうではないことに気付いた。それは、緻密に計算された動機づけのメソッドだった。
実は、メソッドは、筋トレだけではない。お客と話し合って、目標を明確化し、目標を共有する。痩せて異性にモテたいとか、水着になりたいという具体的目標だ。そして、その目標を達成するためにどのような食事をして、どのようなトレーニングをすればよいのかをトレーナーが立案する。そして、ここからが重要なのだが、そのプログラムを確実に実行できるように、徹底的にお客に寄り添い、動機づけを行うのだ。
ちゃんと指導したのに、やってくれなかったから目標を達成できなかったと言い訳するのではなく、目標が達成できるまで、徹底的に寄り添う。それが結果にコミットするということなのだが、本書には、それを実現するためのノウハウが、ぎっしりと詰まっている。
本書は、接客術というタイトルで、営業担当者に役立つノウハウという位置づけだが、私は、このメソッドが最も役立つのは、部下が思い通りに動いていないことに悩む中間管理職なのではないかと思う。人を動かす魔法はない。本書に書かれたメソッドを実行するのは、大変だ。ただ、大変なことをすれば、確実に結果がついてくる。その意味で、本書はすぐに役立つ「人をやる気にさせる」ための極意書だ。 ★★★(選者・森永卓郎)