「すごい90歳」奥村正子著/ダイヤモンド社/1300円+税
本書は、世界マスターズベンチプレス選手権で4回優勝し、いまなお現役選手を続ける90歳女性の健康法だ。
私は、楽で簡単な健康法というのを信用していない。特に、「これを食べるだけで簡単に痩せられる」という健康法は、絶対にありえないと思う。そんなことで痩せるのだったら、誰も苦労しないし、皆がやっているはずだからだ。私が本書を好ましいと思う最大の理由は、本書の健康法が理にかなっていることだ。
実は、私自身が3年半前まで、極度の肥満で、糖尿病で、不健康の極みだった。そこに偶然、テレビの企画で選ばれて、ライザップに通うことになった。ただ私の不健康ぶりが、あまりにひどかったので、私は医師の厳重な監視下で、食事制限とトレーニングを始めた。そのときに複数の医師からアドバイスを受けたのだが、医師によって言うことが異なる部分があった。例えば、糖質制限を優先するのか、カロリー制限を優先するのかという点だ。ただ、医師たちが共通して言ったことがある。それは、健康になるための肝は、「腹八分目の食事と適度な運動」だということだ。
本書で著者が実践しているのは、まさにそれだ。朝食は、白飯が70グラムに肉が140グラム。昼食は、軽く。夕食は食べない。炭水化物を少なめにして、タンパク質をたっぷり取るというのは、筋肉質の体をつくるための基本中の基本だ。また、寝る前の食事を少なくするのもセオリーだが、著者は完全に近い形でそれを実践している。
一方、ベンチプレスの選手なので、トレーニングは、上半身だけ鍛えているのかなと思ったのだが、そうではない。足の筋肉も鍛えているのだ。それも理論的に正しい。一番大きな筋肉は、足の筋肉だから、足を鍛えるのは基礎代謝を上げるのに有効だし、「人間は足から衰える」から、老化を防ぐためにも有効なのだ。
著者が実践している健康法は、誰にでもできるものだ。ただ、それを継続するのが難しい。飽きたり、誘惑に負けてしまうからだ。本書にはそれを防ぐためのノウハウが、ぎっしりとちりばめられている。その点が、本書の最も大きな価値だと私は思う。
★★半(選者・森永卓郎)