「おとなの教養2私たちはいま、どこにいるのか?」 池上彰著/NHK出版新書/2019年
池上彰氏は、教養を二分節化した上で、本書の狙いについてこう記す。
<教養を学ぶことには、二つの側面があります。ひとつは、時代が動いても古びない、普遍的な考え方を身につけること。もうひとつは、ニュースの洪水を前にいったん立ち止まり、歴史や政治学、宗教や経済学などの知識を駆使して、日々のニュースや出来事を捉え直す力を養うことです。「私たちはいま、どこにいるのか?」をたえず意識する力と言ってもいいでしょう。パート2の本書では、この力を身につけることを目指します>
本書は、原理よりも現状分析に焦点を絞っている。具体的には、AI(人工知能)、通貨、ナショナリズム、地政学、ポピュリズム、日本国憲法という6つのテーマを扱っている。いずれも現下の社会が抱える問題と国際情勢を読み解く上で不可欠の知識だ。
池上氏は、重要な言葉に暫定的な定義を与えている。同じ言葉を使っていても、それぞれの話者が違う内容を考えているために起きる不毛な「空中戦」を避けるためだ。例えば、ポピュリズムとファシズムの違いについてこう説明する。
<ファシズムという言葉は、イタリア語の「ファッショ」(束ねる)から来ています。イタリア語であることからわかるように、ファシズムは、狭義にはムッソリーニが率いたイタリアのファシスト党の政治運動や思想を指す言葉です。/しかし、イタリアに影響を受けて、類似の政治運動がヨーロッパに広がっていくにつれ、国家主義のもとで、市民の政治的自由を抑圧するような独裁的な体制全般をファシズムと呼ぶようになりました。/ポピュリズムは、必ずしも独裁を意味するわけではありませんから、ファシズムと同じとは言えません。ただし、ファシズムの運動を展開するうえでは、ポピュリズムの手法が使われます。独裁的な体制をつくるうえでは、大衆の熱狂的な支持を必要とするからです>
ポピュリズムには、独裁を含む権威主義的な発展可能性とともに、衆愚政治によって統治権力が弱体化し、アナーキー(無政府)な状態をもたらす可能性もある。いずれにしてもポピュリズムは国民にとって不幸な結果をもたらすことになる。 ★★★(選者・佐藤優)
(2019年6月7日脱稿)