フェイクぎりぎりのスリリングな風刺劇
南米ウルグアイ。世界に知られた名産はサッカー選手のルイス・スアレスぐらい、というのはウルグアイ人得意の自虐ネタだが、実は世界で初めて大麻を完全合法化したのが同国。昨年10月に解禁したカナダは有名だが、ウルグアイこそ大麻先進国なのだ。
この事実を愉快な笑いの種にした傑作な映画が先週末から公開中の「ハッパGoGo大統領極秘指令」である。
2013年、「世界一貧乏な国家元首」といわれたホセ・ムヒカ大統領は大麻解禁を宣言。狙いは、麻薬組織の根絶と税収の増加だ。ところが困ったのは大麻の仕入れ。組織による非合法ルート以外の供給路がなく、大麻入りケーキを売り出した若き薬局店主アルフレードも、知らずに違法ルートから原料を仕入れて投獄されてしまう。
そのアルフレードに直々に声をかけたのがムヒカ大統領。世界一の大麻市場アメリカで合法的な輸入ルートを確保してこい、という指令を出す。そこでアルフレードは一緒に薬局を営む母親とアメリカへ旅立つが……。
見るからにドキュメンタリー然とした作りで、ムヒカ大統領本人も登場するが、実はすべてフィクション。ムヒカ氏とオバマ米大統領の歴史的な初会談の実写映像をまじえ、フェイクぎりぎりのスリリングな風刺劇を仕上げた。
終幕部に登場するムヒカ大統領のセリフがいい。
「権力者を笑おうという君たちの志が気に入った。それこそ共和国の精神だ」
いやはや、どこかの国の宰相に聞かせたい。
こういう映画の作り方を「モキュメンタリー」(虚構についてのドキュメンタリー)という。白石晃士著「フェイクドキュメンタリーの教科書」が手ごろな解説書だが、ここでは学術的な大麻解禁論として日本臨床カンナビノイド学会編「カンナビノイドの科学」(築地書館 3000円+税)を紹介しておこう。
<生井英考>