クルド人「女戦士」の復讐と悲哀
先の米議会中間選挙では女性議員の躍進、特に軍人出身の女性が多数、議員になったことが話題になった。だが、職業として軍人という名の公務員になることと「女戦士」になることは違う――と、そんなことを考えたのは今週末封切りの映画「バハールの涙」を見たからである。
2014年夏、イラク北西部の山岳地帯に住むクルド人の村々にISが侵攻、大量虐殺におよぶという事件が起こる。特に狙い撃ちにされたのが少数派のヤジディ(ヤズディ、ヤズィード)教徒。映画が描くのは、この事件で夫と子どもを奪われた女性バハールがやむなく銃をとってクルド人武装勢力に加わり、女たちの部隊を率いて戦う姿だ。
監督のエバ・ウッソンは生存者たちに詳しく取材し、複数の女性たちの体験談からヒロインを描き出したという。おそらくそのインスピレーションの源のひとつが、映画でバハールを取材する片目の女性ジャーナリストだろう。
まるで海賊のような黒い眼帯をしたこの女記者のモデルは、7年前にシリアでアサド政権の爆撃により殉職したアメリカ人記者のマリー・コルビン。剛毅な姉御肌で知られた伝説の女性ジャーナリストだが、その目を通して描かれる女戦士バハールは、暴虐にすべてを奪われながら復讐と悲哀で煮えたぎる女性像となって、世界中の男たちに抗議の指を突きつけるかのようだ。
こういう女戦士を見ると「ワンダーウーマン」とか「くノ一忍法帖」もまったく幼稚な男の妄想なのである。
ジェラード・ラッセル著「失われた宗教を生きる人々」(亜紀書房 3700円+税)はヤジディ教を含め、マンダ、ドゥルーズなど中東地域の少数派宗教を詳しく取材したイギリス人外交官の著作。「イスラーム」や「アラブ」の一言で全部を引っくくりがちな我々の目を巧みに開かせる異色の旅行記である。 〈生井英考〉