「三体」劉慈欣著 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳、立原透耶監修
中国のSF作家・劉慈欣の長編SF小説。2008年に中国で書籍が刊行され、大ベストセラーとなった話題作の待望の日本語訳が出た。
天体力学の古典的な難問である「三体問題」をベースにした壮大な物語は、1967年、文化大革命まっただなかの中国で始まる。紅衛兵による糾弾によって物理学者である父を殺された少女、葉文潔は、成長して天体物理学者となり、ある国家的プロジェクトに携わることになった。
時代は変わって、現在。ナノマテリアル研究の第一人者・汪淼は、奇妙なゴースト・カウントダウンに悩まされていた。撮影したフィルムや自分の目に、不思議な数字列が映り込み、カウントダウンを続けている。科学の世界では、一流の研究者たちの自殺が相次いでいた。この世界で何かが起きている……。
葉文潔、汪淼という2人の優秀な研究者を主人公に、超ド級のSF世界が展開する。作者・劉慈欣はSFファンで、本業は発電所のコンピューター管理を担当するエンジニア。3つの天体を3つの太陽として持つ過酷な惑星に生まれた文明と、地球文明のファーストコンタクトは、何をもたらすのか。最先端の科学的知識を盛り込み、人類史を遡り、想像力を駆使して描かれる。
本作は大スケールの「三体」3部作の第1部に当たる。第2部の翻訳が待ち遠しい。
(早川書房 1900円+税)