「イスラム飲酒紀行」高野秀行著
イスラム圏の多くの国は飲酒禁止、製造・販売も原則禁止。国によって差違はあるが、基本的に旅行者用のレストランやホテル以外で酒を口にすることは難しい。「私は酒飲みだ。休肝日はまだない」と豪語する著者は、なんの因果かイスラム圏に行くことが多い。飲めないとなれば逆に飲みたくなるのが酒飲みのさが。
著者は、あたかも幻のUMA(未確認生物)を探すがごとく、秘密のベールに包まれたイスラム圏の酒を求めていく。本書は、その涙ぐましい努力の記録だ。
【あらすじ】アフガニスタンにすむといわれる謎の凶獣ペシャクパラングを探すべく、経由地であるパキスタンのイスラマバードへ到着した著者。パキスタンは厳格なイスラム国だから酒は飲めないが、1泊なら我慢ができる。
だが、天候不順のため出航が順延。途端に酒への渇きが噴出し、矢も盾もたまらず街へ出た著者は、学生から有力な情報を得て怪しげな鉄格子の窓口でなんとかビールにありつく。アフガニスタンでは中華料理屋なら酒があるだろうと目星をつけるが、お目当ての店は爆破されて跡形もない。
そこで諦めないのが著者。中国人が経営する怪しげなカラオケバーを見つけ出し、奇跡的に本物の中華料理とビールに出合う――。
【読みどころ】こんな具合に、チュニジア、イラン、マレーシア、トルコ、シリア、ソマリランド、バングラデシュの各地を巡り、ご当地の隠された酒事情を探っていく。まさに蛇の道は蛇で、著者の酒への執念は開かずの扉を次々とこじ開けていき、イスラム産の酒にまでたどり着く。
イスラム圏=禁酒といった固定観念を見事なほどに覆し、そこに暮らす人たちのおおらかな人情も伝わってくる。
<石>
(講談社 770円+税)