「ヒールをぬいでラーメンを」栗山圭介著
IT企業をクビになり、公私ともにどん底を味わったヒロインが、絶対に見返してやるとラーメン屋開業を決意するところから始まる物語である。
そのヒロイン、門阪有希は、まず麺作り学校に通いだす。同期入学した20人の中で、女性は有希を含めて2人だけ。中学を卒業したばかりの男子から定年退職した元サラリーマンまでさまざまだ。そこである程度のことを学んだヒロインは、次に実際のラーメン店でアルバイトしながら「修業」する。
つまりこれは、昨今はやりの「お仕事小説」である。ラーメン屋を始めるにあたって、いちばん大変なことは何か。何が重要なのか。どういうふうに学んでいくのか。「お仕事小説」の定石通りに、そういう細部が、これでもかこれでもかと描かれていくので、大変に面白い。
「お仕事小説」がこれだけ読まれているのは、具体的なことを、細かなことまで含めてすべて知りたい、という読者が増えているからだろう。現代はディテールの時代だ、ともいえるのである。そういう読者の期待に、本書は十分にこたえると思う。
しかし、本書の魅力はそれだけではないことだ。アルバイト先のラーメン屋「花水木」の従業員たちとの確執と和解を見られたい。そういう人間的要素が濃い、感情が濃い。これが本書の魅力で、この物語にどんどん引き込まれていくのもそのためである。
(角川春樹事務所 1600円+税)