「ちょっと今から仕事やめてくる」北川恵海著
現政権は「働き方改革」を掲げ、そのひとつに長時間労働の是正が挙げられているが、過労死への対策はいまだ不十分というのが現状のようだ。この問題の難しさは、過酷な労働にさらされていてもそれが異常なこととは思わず、耐えられないのは自分が弱いからだと自己嫌悪に陥らせてしまうことだ。
就活に励んでいた本書の主人公も、同級生から就職した先輩がうつになっていると聞いて、「先輩はちょっと、精神的に弱かったんじゃないの?」というが、後にこの言葉がそっくり自分に返ってくる。
【あらすじ】そこそこ名の通る大学を卒業した青山隆は、一流企業の内定は取れず、中堅の印刷関係の会社に就職した。ならば、利益を上げて自分を落とした企業を見返してやろうと張り切って入社した隆だったが、連日、帰宅は夜の11時近く、上司からは毎日のように怒鳴られ、わずか半年で心身ともにボロボロ。帰宅の電車を待っていると上司からの電話。いい加減にしてくれと心の中で叫び、電源を切る。
もうすべてが面倒になり、このままホームに飛び込めば会社に行かなくても済む――そう思った瞬間、誰かに引き戻される。助けてくれたのは小学校の同級生の「ヤマモト」だった。とはいってもその名前も顔も覚えがない。それでも彼とは妙に気が合い、ちょくちょく会って話をするうちに隆の心は落ち着きを取り戻し、仕事もうまくいくようになる。
しかし、ある日、このヤマモトが3年前に過労で自殺していたことがわかる……。
【読みどころ】「人生は何のためにあるのか?」なんて聞かれても、普段なら一笑に付すところだが、もし、仕事に疲れ、迷っている人であれば、読後、この言葉が深く染み入ってくることだろう。 <石>
(KADOKAWA 530円+税)