「金曜日の本屋さん」名取佐和子著
本屋の仕事の重要な役割のひとつは、本を探すこと。タイトルや著者が分かればネットで検索すればよいのだが、あまりに漠然としたものだとそれもかなわない。あるいは自分の買った本の履歴から「あなたへのおすすめ」というのが出てきたりもするが、見当違いなものが多い。
そこで登場するのが、常日頃、本を探している客に接している本屋さんだ。こんなカバーで、最近新聞で紹介されていた……といったものでも優秀な店員なら探り当てることができる。
【あらすじ】本書は、北関東の小さな駅にある「読みたい本が見つかる本屋」という噂の本屋が舞台。ネットでその噂を知った大学生の倉井史弥は、半信半疑ながらその店を訪れた。ローカル線の辺鄙な駅の中にある「金曜堂」は、底抜けに明るい店長の南槇乃と併設の喫茶店でマスター役をこなす栖川鉱、そして角刈りで金髪のオーナー・和久靖幸の3人が取り仕切っている。3人は高校の同級生で読書会のメンバーだったという。
倉井は病気の父に以前借りた本を返すように言われたのだが、どうしてもその本が見つからず困り果てていた。その事情を槇乃に話すと、見事、解決してくれた。それを機にアルバイト店員として金曜堂で働くようになった倉井は、今度は訪れた客のリクエストに応えて本を探す側になる。
実は、業界最大手の全国チェーンの書店の3代目社長の息子で、後を継ぐことをためらっていたのだが、ここで働くことで本屋の仕事を見直すようになっていた……。
【読みどころ】本屋の役割は、「お客さまが本の海で溺れないように、要所で浮輪を投げてやる」ことだという言葉が沁みてくる。
登場する本の選び方も秀逸。シリーズ全4作の1作目。 <石>
(角川春樹事務所 600円+税)