「ちくわぶの世界」丸山晶代著 渡邉博海写真
東京の下町で生まれ育った著者はソウルフードの「ちくわぶ」をこよなく愛するが、その知名度の低さとおでんの具材のみの扱いに憤慨して、ちくわぶ料理研究家に。そんな著者が「ちくわぶの素晴らしさ」を広めたいとつづった世にも珍しいちくわぶ本。
東京近郊の人には意外だが、地方ではほとんどなじみがないというちくわぶ。地域別の好きなおでん種ランキングでも、東京では堂々の8位にランクインしているちくわぶだが、それ以外の地域では皆無。分布図を見てもちくわぶをおでんに入れるのは東京近郊だけ。
その理由はずばり、地産地消的食材だったからだという。すぐに傷んでしまうちくわぶは、1980年代に現在のような真空パックが登場するまで、輸送手段や冷蔵技術の問題で東京から出なかったのだ。
著者が「ちくわぶの聖地」と呼ぶ北区赤羽にある1932年創業の川口屋の工場でその製造過程をリポート。さらに、杉並の鈴木商店や世田谷の瀬間商店、そして1873年創業という現存最古の手作りちくわぶ屋足立区千住の山栄食品など、それぞれのメーカーを巡り、担当者からそのこだわりなどを聞く。
それらの話を参考に自らも手作りちくわぶに挑戦するが、その大変さと低価格で購入できる気軽さから、「ちくわぶは作らずに買いましょう!」との結論に至る。
ほかにもコンビニおでんのちくわぶ食べ比べや、生麩の庶民版として誕生したと思われるそのルーツ、浅草の「大多福」や赤羽の「丸健水産」などおでんの名店を巡り店主らのちくわぶ愛やウンチクに耳を傾けたかと思えば、自ら開発した唐揚げやカヌレなどちくわぶのさまざまな食べ方を提案するレシピまで。ちくわぶ愛が暴走した面白本。
(ころから 1500円+税)