「山手線圏内 蔵めぐり散歩ガイド」清田予紀著
東京は、かつて「蔵の街」と呼ばれるほど江戸や明治時代に建てられた蔵が林立していたという。しかし、度重なる災害や戦災、そして近年は再開発によって、急激にその姿を消しつつある。
本書は、そんな蔵に魅せられ、住居用に改装した蔵に住み、「蔵見ニスト」と称して、都内に残る蔵の発掘と探訪を続けてきた著者によるガイドブック。
蔵の魅力のひとつは、構造がシンプルでどこにも無駄がないこと。直方体の塊をドンと置いただけのような外観で、内部には天井板さえない。むき出しの梁は太く、壁の厚みは30センチほどもあり、金庫を思わせるような扉や窓など、堅牢な造りになっている。
そんな蔵の建物としての特徴や歴史、細部の解説など基礎知識を得たら、いよいよ蔵巡りに出発。
文京区根津の串揚げ専門店「はん亭」は、大正時代に建てられた3階建て日本家屋で営業。同店の座敷席として使われている蔵は、なんと建物の中にのみ込まれた内蔵だ。建物よりも古い明治42年に建てられたもので、外蔵だったものが増築の過程で内蔵になったという。
同じ根津にあるうどんの名店「釜竹」は、新国立競技場の設計者、隈研吾氏による新築と明治43年築の蔵が合体した構造。
その他、正岡子規の没後、遺品などを保管するために遺族が建てた子規庵の蔵(台東区根岸)や、樋口一葉が通った質屋「旧伊勢屋質店」の蔵、増上寺や妙定院(いずれも港区)などの寺院に残る由緒ある蔵、明治の元勲・松方正義の屋敷跡のイタリア大使館で今は観光局のオフィスとして使われる蔵など38戸前(蔵の数え方)を案内。さらに著者がこれまでに発見した70戸前の蔵の地図も公開。街歩きに新たな楽しみが加わること請け合いだ。
(玄光社 1600円+税)