「10年後に食える仕事食えない仕事」渡邉正裕著/東洋経済新報社
急速に進展している人工知能やロボットの活用が、仕事をどのように変えるのかは、重要な課題だ。いまから5年前、野村総研が、いまある職業の49%が消えてなくなると発表したときには、世間に大きな衝撃が走った。ただ、野村総研の分析は、あくまでも技術的な代替性であり、いつまでにという予測年次もなかった。
本書は、10年後という年次を明示しているだけでなく、社会的な要因も踏まえて分析している。
著者は、日本経済新聞で記者を務めたあと、日本IBMのコンサルタントとして業務分析の仕事に携わった。また、現在は労働問題を中心とするニュースサイトを主宰して、多くの人の仕事を取材している。実は、こうした幅広い経験を持つ人は非常に少ない。普通は、知っている業界や職業が限定されてしまうのだ。
著者の幅広い知見が、本書の地に足のついた将来展望を支えている。私自身もかれこれ40年近く、労働問題に携わってきたので、おおよその土地勘はあるのだが、著者の見立てに違和感を覚えるところは、まったくなかった。特に素晴らしいなと思うのは、既得権をきちんと分析していることだ。いくら技術的に不要になっても、既得権で守られた仕事は消えないからだ。
さて、10年後の仕事の未来だが、著者は細かい職業分類ごとに、機械が強いか、人間が強いかを横軸に、知識集約的か、技能集約的かを縦軸にして、仕事を分類している。もちろん、今後消えるのは、機械が強い分野で、いまある仕事の36%が消えるとしている。そして、今後も生き残る仕事を、①デジタル・ケンタウロス(知識集約型)②手先ジョブ③職人プレミアム(いずれも技能集約型)と名付けて、仕事を失う人へ、これらの仕事への転換の仕方までアドバイスしている。
著者の膨大な知識とバランス感覚は素晴らしいのだが、一つだけエアポケットがあるのは、オタク分野だ。「プラモデルの組み立てを生業にしている人は聞いたことがない」と著者は言うが、私はたくさん知っている。
ただ、職業構造全体の展望からみれば、それは大きな部分ではないかもしれない。生涯の職業人生を設計するのに役立つ良書だ。
★★半(選者・森永卓郎)