「働き方5.0 これからの世界をつくる仲間たちへ」落合陽一著/小学館

公開日: 更新日:

 踏み絵を迫る本である。一体何の踏み絵かといえば「おまえは終わったヤツか? おまえはまだ活躍できるヤツか?」ということだ。この本を読めば読むほど気分が落ち込んでしまう読者は「終わったヤツ」と認定されたと感じられるかもしれない。

 著者は現在の日本の若手識者の中では「反論のしようがない」タイプの人物だろう。堀江貴文氏や西村博之氏といった系譜に連なる隙がなく、議論でもしようものなら完璧に理詰めで論破されそうな人物だ。

 そんな著者が、現在の時代とイケイケなヤツとダメなヤツがどんな人間か、を一切の忖度なく論じる。「意識だけ高い系」のSNSユーザーについてはこう述べる。

〈専門性がないがゆえに自慢するものが「フォロワーの数」か「評価されない活動歴」「意味のない頑張り」程度しかない〉

 そして、仲間は多いものの、結局は吐き出す情報は自分で考えたものはなく、浅く広い知識しかなく専門性も独自性もない「歩く事例集」とバッサリ。

 あとは「この人みたいになりなさい」というロールモデルを提示されることにも疑問を呈する。

〈その「誰か」にだけ価値があるのですから、別のオリジナリティを持った「何者か」を目指すしかありません〉

 コロナ禍を経た我々がAIの時代にどのようにして生きていくか、のヒントが詰まった本ではあるが、読み進めるにつれてため息しか出ない人は「オレが25年間必死に“一流企業”でジェネラリストとして闘ってきたことはなんだったのだ……」なんてことを思ってしまうかもしれない。

 出てくる言葉や概念にしても、「*」の形で注釈がついており、「キミたちはよく知らないかもしれないけど、これが最先端なんで……」と見下されているように感じることだろう。

 ただし、絶望する必要はない。人は「天才」にはなれなくても「変態」にはなれるからだ。変態とは「比較的広いレンジの専門性」を持っており、選択肢は広いという。

〈「天才建築家」の職種は建築士に限定されますが、「建物好きの変態」は建築士になれるだけでなく、建築に使う素材や重機などの開発者になれるかもしれませんし、インテリア・コーディネーターや都市計画の専門家になれるかもしれません〉

 読み終えることができたならば、今現在の「若手論者」が考えていることを知るという価値、自分は「終わった人」ではないという実感を得られるはずだ。

★★★(選者・中川淳一郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動