「トラジャ」西岡研介著/東洋経済新報社
別名“JRの妖怪”の松崎明(JR東労組のボスで革マルのドン)と“女帝”の小池百合子は親交があった。意見の異なる者を排除するその“排除体質”で一致していたのだろう。やはり、女帝よりは妖怪の方が激烈で、松崎の場合は排除というより削除、あるいは抹殺と言った方がふさわしい。
大部のこの本は「マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」(講談社)に続く松崎追及本。先ごろ、JR東日本の社長、会長を務めた松田昌士が亡くなったが、松田こそが松崎を肥大させた元凶だった。
同社発足当時、松田の片腕といわれた野宮一樹を心底ガッカリさせる発言を松田がする。
1991年秋、副社長だった松田は、松崎支配下のJR東労組「ユニオンスクール」で、JR西日本やJR東海の労政を批判し、次のように主張した。
「我々は経営協議会で、会社の基本的な政策をパートナーである皆さんと議論し合意に達したあと、労働条件を団体交渉で決める。山形新幹線であろうと、やるかやらないかということから、投資問題に至るまで、議論させていただいている。(中略)そうであれば、松崎委員長と私だけじゃなくて、皆さん方と会社全員が、経営陣がもっと癒着していいはずであります」
経営責任を放棄した驚くべき発言だった。松崎に全面屈服したのである。かつて、日産に、やはり経営者と癒着して同社を腐らせた塩路一郎という労働貴族がいた。その再来ともいうべき松崎は専横を極め、従わぬ者を徹底弾圧して、乗客の安全なども無視していく。
私は国鉄の分割・民営化ならぬ会社化に反対して、国鉄労働組合(国労)を支援し、会社と癒着してそれに賛成した松崎支配下の革マルに嫌がらせをされたが、そもそも、JRとなった国鉄は民営化ならぬ会社化してはいけないものだった。
それによって過疎化はさらに進んだが、ある町の町長がこう言ったという。
「国鉄が赤字だと言うけれども、じゃあ、消防署が赤字だと言うか、警察が赤字だと言うか」
つまり、公共の施設は赤字黒字では測ってはいけないものなのである。郵政民営化ならぬ会社化も同じで、公を食いつぶす新自由主義に乗っかって何が失われたかを、この本は激越に示している。 ★★★(選者・佐高信)