「東京『多叉路』散歩」荻窪圭著
昔の人は、無駄に上り下りをしないよう、また水が集まる不安定な谷地などを歩かぬよう、地形に即した道を工夫して通していた。やがて古い道筋を温存しながらも、自動車に適した道が造られたり、農地が住宅地に転換したために不要になった水路を暗渠化して道路にしたために、気がついたら複雑な「多叉路」がいくつもできたという。
本書は、都内に無数にある多叉路の中から選りすぐりを取り上げ、その道の成り立ちや歴史を解説してくれるちょっと変わった歴史散歩ガイド。
まずは交差する道路が一番多い「九叉路」から。東京・東村山市の西武多摩湖線八坂駅近くの「九道の辻」という交差点だ。現在は7本、その1本と途中から分かれていく細い道を加えても8本しか確認できない。しかし、明治前期の古地図を見ると9本どころか10本もあったという。そのうちの1本は、今は失われているが府中を経由して鎌倉に至る鎌倉街道で、伝承によると、この九道の辻には、新田義貞が上野国から鎌倉を攻めるために通過した際、この辻でどれが鎌倉への道か迷ったので、道しるべとして植えさせた「迷いの桜」があったという。
九叉路に続くのはもちろん八叉路。葛飾区の京成押上線・四ツ木駅近くにあるそれは、なんと八叉路が2つも同一道路上に連続して存在している。その成り立ちは、碁盤の目状に整理された水田地帯を斜めに横切るように江戸時代の用水路と昭和の水道道、そして高度経済成長期に造られた自動車用の太い道が交差して造られたという。
以後、三叉路まで、交差する道が多い順に20の多叉路を取り上げる。
パノラマ写真や古地図などを駆使して現代と過去を行き来しながらの歴史散歩。近所の多叉路にも意外な歴史があるかも。
(淡交社 1600円+税)