「THE FISH 魚と出会う図鑑」長嶋祐成著
魚の絵描き「魚譜画家」の著者は、小学校低学年のときに、漫画でその存在を知ったピラニアの幼魚を飼ったことがあるという。見た目は愛らしい小魚が、漫画の描写通りに小さな怪物であることはすぐに分かった。一方でその怪物は意外にも神経質だったそうだ。
知識では知っていた魚を実際に目にすると「思い描いていた姿と違ったり、あるいはその通りだったりしながら、現実の手触りをともなって」著者の世界に位置を占めていった。これまでのそんな魚との幸福な出会いをつづったイラストエッセー図鑑。
「釣れないことの思いがけない楽しさ」を知った初めての釣りで狙ったハゼ、釣りを始めたばかりの親子にイロハを教えてくれたMさんの案内で出かけた海で父親が釣り上げたカサゴなど。それぞれの魚を、自作の絵とデータ、そしてその魚にまつわる個人的な思い出とともに紹介する。
カサゴは、魚の絵描きになった著者の出発点ともいえる魚だ。カサゴの格好良さに魅せられた著者は、出会った瞬間の感動を手元に残したいと、それ以降、学校の休み時間にノートの余白に魚の絵を描くようになったのだ。
成長するにしたがって釣り方も狙う魚も変化してきたが、出会いの感動をとどめておきたいという思いは変わらず、水辺で見た姿を心に刻みながら絵を描いているという。
生態系を破壊すると問題視されている外来種のオオクチバスとその周囲を泳ぎ群れる小魚たちとの不可思議な共生、バルセロナの海で釣りあげたハタ科のペインテッドコンバー、国内では西表島にしかいないテッポウウオの野趣に満ちた姿、移住した石垣島の海のオジロバラハタやコガネシマアジなど145の魚を網羅。その絵には、写真では決して表現できない魚たちへの愛に満ちている。
(河出書房新社 2200円+税)