「イラスト図解 感染症と世界史」神野正史監修
300年太平を守り続けた徳川幕府が、黒船がきっかけで幕末維新の乱世に突入したように、歴史には「流れ」がある。動かないときには誰がどんなに望もうとテコでも動かないのに、ひとたび動き始めれば、今度は誰が止めたいと願おうがその「潮流」を止めることはできないと、予備校の世界史講師である監修者の神野氏は言う。
これまで人類は何度もパンデミックを経験してきたが、パンデミックが歴史を動かす「契機」になったことも珍しくない。先人たちがパンデミックにどう対処してきたのか、そして「アフターパンデミック」はどうなったのか。本書は、そんな人類と感染症の戦いの歴史をイラスト図解で解説してくれる歴史テキスト。
人類と感染症の関係ははるか昔の狩猟時代に始まるが、農耕を開始して定住生活になると感染症との戦いは本格化。紀元前7000年ごろには、牛やヤギからの感染によって地中海東岸地方で「結核」が流行したと推測される。また紀元前3500年ごろに起こったメソポタミア文明では「麻疹」が大流行したという。
感染症が持続的流行を維持するには数十万の人口が必要であり、以後定期的に流行を繰り返した麻疹は辺境ほど伝播が遅く、20世紀まで5000年を要して地球全土へ広がったそうだ。
以後、ペロポネソス戦争中のアテネで起きた世界初のパンデミックや、中世を終わらせ近世に突入する大転換点となった14世紀のペストの大流行、ナポレオンのロシア遠征失敗の最大の要因となった発疹チフス、図らずも第1次世界大戦の終結を早めたスペイン風邪など。古代から現代までの歴史を感染症という視点から俯瞰。
アフターコロナを見据え、先人の戦いに学ぶタイムリーなテキスト。
(宝島社 1300円+税)