「すみなれたからだで」窪美澄著

公開日: 更新日:

 3年前のその日、「私」は五日市線の終着駅でバスを待っていた。父親が入居する予定の老人施設に手続きに向かうためだ。

 20年以上前、私は毎週末、この駅に通った。子供の父親が駅の近くに住んでいたのだ。彼とはただ会って、山の中を歩き、話をした。誰もいない山道を歩いていると、時々、この人に首を絞められるのではないかという不安に駆られた。彼との結婚生活が行き詰まり、鬱になり、心療内科に通うようになってその理由が分かった。子供の頃、父親に手を引かれ山中をさまよった記憶が蘇ったのだ。当時の父は、この世から消える場所を探していた。(「父を山に棄てに行く」)

 性をテーマにした作品からノンフィクションに近い私小説風まで9つの物語を収録した短編集。

(河出書房新社 680円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭