「世界史を変えた戦い」DK社編著、甲斐理恵子訳
歴史の中でももっとも悪名高く後世への影響が大きかった戦争を取り上げ解説する歴史ビジュアルブック。
紀元前1274年、エジプトのファラオ・ラムセス2世がヒッタイト帝国の脅威を抑え、戦略拠点のカデシュを奪うためにシリアに進軍した「カデシュの戦い」から、2003年の多国籍軍によるサダム・フセイン統治下の「イラク侵攻」まで3000年以上に及ぶ戦争の歴史を俯瞰する。
ちなみにカデシュをめぐる攻防は、エジプト軍とヒッタイト軍とも譲らず手詰まりに陥り、どちらも支配権を獲得することができなかった。この停戦状態は、15年後に結ばれた協定により承認され、これが記録に残る最古の平和条約といわれているそうだ。
以後、紀元前490年にペルシャ王ダレイオス1世が、反旗を翻したギリシャのアテネにほど近いマラトンに大規模艦隊を送り込んで襲撃した「マラトンの戦い」から年代順に追っていく。
この戦いでは、都市国家プラタイアイの援軍と合流したアテネ軍の重装歩兵のファランクス(密集隊形)がペルシャ軍の包囲に成功。スパルタの援軍も到着し、ペルシャ軍は撤退を余儀なくされる。
ファランクスとは、土地を所有する市民階級によって構成される最大8列の小規模な隊形。密集した兵士が無防備な左側を盾で守りながら無数の槍を投げて戦うため、敵がファランクスを突破することはほぼ不可能だったという。
このように時代によって進化した武器や戦術などにも触れながら、当時の地図や戦闘の様子が描かれた美術品や写真などの図版とともに各戦争の背景や関連事項、結果を概説。
ハンニバルが大敗した「ザマの戦い」(紀元前202年)のように帝国の崩壊につながった戦いをはじめ、330年も続くムガル帝国誕生の発端となった「パーニーパットの戦い」(1526年)や、戦争自体はさほど有名ではないが、携帯操作式の小火器によって勝敗が決した最古の戦い「パヴィアの戦い」(1525年)など軍事技術に革新がもたらされた戦いもある。
日本に関する戦いも、古くは「壇ノ浦の合戦」(1185年)から「長篠の戦い」(1575年)、日露戦争時の「奉天会戦」(1905年)、そして「硫黄島の戦い」(1945年)まで多数網羅。
陸だけでなく大日本帝国海軍がロシア海軍に大打撃を与えた「日本海海戦」(対馬沖海戦=1905年)や英西戦争でのスペイン「アルマダ(無敵艦隊)の海戦」(1588年)などの海の戦いにも注目する。
皇帝や政治家の野望、外交戦略の失敗、乏しい資源の争奪戦など「戦争はつねに、他の出来事の結果」であると本書は説く。そんな歴史の転換点になった140以上の戦いを眺めながら、不戦の誓いを新たにする。
(原書房 3800円+税)