「まんが訳 酒呑童子絵巻」大塚英志監修 山本忠宏編集
中国で生まれた絵巻は、日本でも平安時代末期に盛んに制作されるようになり、人気を博した。
もともとは仏教の教えを広めるために作られたものだが、江戸時代には歌舞伎や能で知られるようになった物語の絵巻が大量に作られた。その鑑賞法は、床に置いた絵巻を左手で肩幅程度に広げ、右手で巻き取りながら見るというもの。物語が書かれた文章部分「詞書」を読む人を囲めば複数人で、そして文字の読めない子供も楽しめ、絵の部分は左から右へと新しい場面が流れるので、当時の人々にはアニメーションのように見えただろう。本書では、そうした絵巻を現代人にも親しみやすく「まんが訳」したビジュアルブック。
耳慣れない「まんが訳」とは、絵巻の一部をクローズアップしたり、切り抜いたりして、まんがのようにコマ割り。さらに詞書をセリフやト書きにしておのおののコマに配し、いわば絵巻を分解してまんがに再構築したものだ。
表題作「酒呑童子」は一条天皇の時代の物語。都の貴族の娘が次々と姿を消し、ついには中納言国賢の娘まで行方不明となってしまう。安倍晴明の占いで、千丈ケ岳をすみかにする鬼の仕業と判明。天皇の勅命を受けた源頼光が配下の四天王を伴って、鬼神退治に乗り出すというストーリーだ。
まんが訳されることによって、勅命を受けた頼光の決意に満ちた表情や、山伏に扮した四天王の装束など、読者の視線は絵巻の細部にまで導かれ、さまざまな発見を得たり、好奇心をかきたてられたりすることだろう。
他にも、嫉妬に狂う女心を描いた「道成寺縁起」、源頼光とその腹心の渡辺綱が蜘蛛の化け物を退治する「土蜘蛛草子」の2作もまんが訳で併録。
古典を新たな作品に仕立て直し、現代人に親しみやすくした意欲作。
(筑摩書房 980円+税)