「移民の世界史」ロビン・コーエン著 小巻靖子訳
コロナ禍で世界は一変。多くの国で国境が閉じられ、都府県の境を越えることさえ躊躇してしまうことになろうとは。まるで江戸時代に逆戻りをしてしまったかのようだ。
そもそも人類の歴史は移動とともにある。20万年前に東アフリカを出た人類は、世界中に拡散しながら、1万年前にアメリカ大陸南端まで到達した。そして現在も、人はさまざまな理由で常に移動を続けている。
本書は、そんな人類の歴史を移動という視点から読み解いていくグラフィックテキスト。
古くからある宗教では、その信仰が伝道者によって広められ、巡礼などによって刷新され、異端者を排除することで守られてきた。宗教のこの3要素が人の移動に大きな影響を及ぼしたと、ブッダやキリスト教を世界宗教に発展させたパウロの足跡、そして各宗教の伝播の経緯などを解説する。
一方、大航海時代のヨーロッパ人より、はるか前からイスラム世界や中国の探検家が外洋に進出をしていた。その一人でモロッコ生まれのイブン・バットゥータの航海は、イスラム世界全域とその周辺、12万キロにもおよぶ。
他にも、19世紀から20世紀にかけて3000万人がヨーロッパからアメリカに渡った「大西洋大移住」をはじめ、現在の世界的問題にもつながる「大西洋奴隷貿易」や、奴隷制度と変わらなかったアジアの年季奉公などの強制移動、インドの分離独立やイスラエルがユダヤ人の「集合」地となり、パレスチナ人が土地を追われることになった経緯、さらに現代の外国人労働者や亡命、難民、セックスワーカー、気候変動による移住まで。さまざまな視点から人の移動について図版を用いて解説。現代社会とニュースがより深く分かる格好のサブテキストだ。
(東京書籍 2600円+税)