「名城の石垣図鑑」小和田哲男監修
戦国武将たちが築いた城郭は、時代の空気が感じられる遺物として多くの日本人を魅了してやまない。しかし、その天守の多くは復元されたもので、創建時のままの姿で残っているものはわずか12天守しかない。
もっとも、天守は復元されたものでも、城郭を支える石垣は、往時のままの姿で残っていることが多い。本書は、名城の石垣に注目した図鑑。
言わずと知れた日本最大の城郭・江戸城も、建物の多くは火災や地震で失われたが、巨大な花こう岩を精巧な切り込み接ぎで積み上げた天守台などが、江戸幕府の権威を今に伝える。この天守台は、明暦の大火後の万治2(1659)年に加賀前田家が再築したものだが、城内では家康時代の第1期天下普請(慶長9~12年、1604~7年)時に、築城の名手・加藤清正が築いた富士見櫓を支える打ち込み接ぎの石垣など、さまざまな時代の石垣を見ることができる。
その他、敵の侵入を防ぐために石垣の最上部が飛び出た「はね出し石垣」などの珍しい遺構がある西洋式城郭「五稜郭」(安政4=1857年)から、角を作らず石灰岩を曲線状に積み上げることで荷重を分散させている首里城(15世紀ごろ)まで。全国75城の石垣を豊富な写真と解説で巡る。
城の主要な防御施設である石垣の歴史は飛鳥時代にまでさかのぼるが、現在目にするような総石垣造りの城は、信長の安土城に始まるという。積み方の基本は、自然石を積んだ野面積み、ある程度石を加工して積む打ち込み接ぎ、そして石を成形して積む切り込み接ぎの3種類で、この順で築かれた年代が推移する。
そんな歴史や基本知識から、文字などが刻まれた刻印石の意味などの見どころまで。お城の楽しみ方が変わるお薦め本。
(二見書房 1600円+税)