「食べることと出すこと」頭木弘樹著
大学生の時、潰瘍性大腸炎を患った著者は、食事と排泄(はいせつ)を常に意識せざるを得なくなった。本書は、カフカ研究家として著名な著者が、自身の体験から見えた世界と闘病の中で心の支えとした文学作品の一節を紹介したものだ。
入院した当初、著者は中心静脈栄養だけに頼る、飲まず食わずの絶食を1カ月以上経験する。すると、栄養は足りているのに、喉や顎や舌などの各部位が飲みたい、噛みたい、味わいたいという欲求で暴れ出す。
さらに絶食明けには何を食べても大喜びかと思いきや、味覚が敏感になり過ぎて添加物の入った食べ物を食べられない羽目に陥ったり、食に制限があることで人間関係にヒビが入ったり。加えて便を漏らしやすくなったことから、自然と引きこもり生活に突入していく……。
新型コロナの流行で、人々は外食や外出を控える新しい生活様式を始めたが、著者にとってはまるで自分の生活に世の人々が近づいてきたかのようだったという。病気と付き合わざるを得なくなった時、人の心にどんな変化が起こるのか、さらにそうした人々に文学はどう寄り添うのかを教えてくれる。
(医学書院 2000円+税)