「投票権をわれらに」アリ・バーマン著 秋元由紀訳
1965年3月、米アラバマ州セルマで投票権獲得を求める平和的デモ行進と州警察とが激しく衝突した「血の日曜日」事件のあと、投票権法が成立した。1870年に採択された、人種による投票権の制限を禁じた憲法修正第15条の約束がようやく果たされたのだ。これにより、南部全域で有権者登録の際の識字テストや、黒人の選挙人登録を制限することができなくなり、その後数十年の間で、黒人有権者の登録率は31%から73%に。しかし、50年経った今、その権利が骨抜きにされようとしている――。
本書は、65年の投票権法成立以降、マイノリティーに投票させないための狡猾な手口の歴史を通して、「民主主義国家・法治国家」アメリカの実相を描いたノンフィクション。
選挙区で黒人が過半数を超えないように操作、期日前投票期間の短縮、投票所で10時間も待たせるなどその妨害は数えきれない。こうした措置は2008年にオバマを勝利に押し上げた黒人やヒスパニック、貧困層ら「勢力ある連合」に不利になるようにできていた。
国民の権利であるはずの投票権が操作され、選挙に大きな影響を与えただろうことに驚愕する。
(白水社 3800円+税)