藤井青銅(作家・脚本家)
10月×日 茨城県石岡市の中央図書館で、拙著「国名の正体」に関する講演。後半、国名クイズ大会になって楽しかった。
10月×日 小林のり一著、戸田学編「何はなくとも三木のり平 父の背中越しに見た戦後東京喜劇」(青土社 2600円+税)を読む。父・のり平についての、息子・のり一氏の語りが縦の筋となっている。自らも演者だからエピソードには深みがあり、抑制が効いているのが素晴らしい!
それに加え、先行する膨大な本、雑誌、映像記録から引用して検証を行っている。たとえば、三木のり平と森繁久彌のあるエピソードに関し、①のり一氏の語り②それが書かれている森繁の本③同じくのり平の本…と3つの角度から見ている。全編に渡ってこれが行われているのだ。さすが戸田学編だ!
海外のドキュメンタリー番組は膨大なインタビューコメントを贅沢に使い、物事を多面的にとらえようとする。この本はその手法で作られている。
10月×日 放送作家3人で喋る「三人寄れば無駄な知恵」というラジオ番組の収録。世の中にはもっと無駄が必要だね。
10月×日 布施祐仁、三浦英之著「日報隠蔽 自衛隊が最も『戦場』に近づいた日」(集英社 720円+税)を読む。南スーダンに自衛隊がPKO派遣され、その日報が隠されたあの事件だ。国内で情報公開制度によって真実を知ろうとする布施氏と、現地アフリカで取材を行う三浦氏。両者に面識はないがSNSでつながっているという関係性が新しい。2人は別々のアプローチで同じ真実に迫っていく。これまた良質なドキュメンタリー番組のようなノンフィクション共著。
この件で当時の防衛大臣らが辞任に追い込まれた。だが問題はそんな「小さな」ことではない。権力は平気で嘘をつく、そして我々はそれを忘れがちということなのだ。
10月×日 私の新刊「ハリウッド・リメイク桃太郎」(柏書房 1400円+税)の見本が届く。読んでいる本と自分が書く本のギャップに呆れる。が、本というのは、色々あるから面白いのだ。