「雷鳴に気をつけろ」ジム・トンプスン著 真崎義博訳
20世紀初めのころ、ネブラスカ州の小さな村に、その地に実家のあるイーディ・ディロンが7歳の息子ロバートを連れて列車で帰ってきた。夫が行方不明になり、地元に戻るしかなかったのだ。しかし、実の母親パールと末弟のグラントはあらゆる手を尽くして居心地を悪くさせ、イーディは亡き妹の夫・ファイロの紹介で、冬の間、息子を実家に残して田舎の学校へ働きに出ることになる。
一方、無職のグラントは美人のいとこベラをモノにしようと企み、人生に疲れ果てているパールは、牧師のある計画に傾倒していた。そして土地の権利書を牧師に渡そうとした時、覆面の男が現れ、牧師を引きずっていった――。
暴力と狂気が渦巻くダークなノワール小説で知られる著者の本邦初訳。
誰もが血がつながっているかと思われるほど小さな村で、イーディの父親リンカーンの回想、長兄シャーマンの農場経営、グラントとベラの近親相姦関係などの物語が交錯しながら、同時進行的に語られていく。叙事詩的に一族の姿を浮かび上がらせるも、その世界観は地獄。運命を受け入れ滅んでいく「異常」にページを繰る手が止まらなくなる。
(文遊社 2700円+税)